行司の世界は奥が深い!
目からうろこが落ちた!
八百長騒動以来、大相撲はあまり人気がないようだ。
一昨日開幕となった5月場所初日も、満員御礼の垂れ幕が
おろされることはなかった。
相撲は日本の国技の代表的存在なので、とても残念に思う。
日本の国技の多くが礼で始まり、礼で終わるとされるが
とりわけ相撲はその色合いが濃い。
行司の軍配は絶対であり、審判を担当する親方衆の物言いがない限り、
負けとさばかれた力士は勝負の判定に不満があってもそれを口に出さず、
礼をして土俵をおりなければならない。
さて、この行司の役割、というか所作については余程相撲好きでも
ない限り関心を持たないであろう。
栃若時代、柏鵬時代の全盛時を知り、相撲好きを自認するわたしも
力士の動静には注意を払ってきたが、行司について関心を寄せた
ことはかつてなかった。
しかし今回取り上げた『大相撲行司の世界』は行司の役割、所作の他、
位によって持ち物が違うことなどが詳しく書かれていて、とても面白い。
たとえば、行司には相撲の勝敗を裁くという主な役割の他、相撲字という
独特の書体で番付表を書く役割もあること、足袋を履けるのは十枚目格、
すなわち十両以上の力士をさばく行司からであること、さらに足袋と草履
まで履けるのは三役格(力士で言えば小結)以上であり、その行司は印籠
も身につけていること、短刀を差すことが許されているのは立行司という
大変格の高い行司だけであり、短刀を持つのは差し違え、すなわち勝ち負け
の判定を間違えると切腹をすることを意味し(もちろん実際に切腹をするわけ
ではないが)、それだけ行司の軍配には絶対の自信と責任が伴っていること、
行司の最高位である木村庄之助は結びの一番だけしか裁かないことなどなど。
また所作としてとても興味深いと思ったのは、行司が力士の四股名を呼び上げる時に、
軍配についている紐房を垂らすことができるのは木村庄之助だけであることと、
行司の四股名を「かたや白鵬、白鵬、こなた稀勢の里、稀勢の里」(二声(ふたごえ)と
言うらしい)というふうに呼び上げるのは三役以上の力士が土俵に上がったときで、
三役以下の力士の場合は「〇〇に、△△」という簡単な呼び上げであること、軍配の
握り方に木村流と式守流とがあること等々。
これらのことは今まで全然気づかなかったし、知らなかった。
ただしこの二声、十両の最後の取り組みにだけは使うらしいから、これもまた面白い。
そのほか行司に関するさまざまなことがこの本に書かれているが、行司のことを
知ると相撲自体に俄然興味が湧いてくること請け合いである。八百長が云々されることは
相撲界にとって大変不幸なことだと思うが、観客であるわれわれも勝負としての面白さに
加え、様式にのっとった美をそこから汲み取ることで、相撲観が大いに変化することであろう。
この本が呼び水となって、大相撲人気に拍車がかかることを私は期待しているのである。
当館所蔵情報
3階閲覧室 788.1 N64 『大相撲行司の世界』根間弘海 著,吉川弘文館
(文責:Bach憧憬)