『船に乗れ!』
津島サトル…。この主人公の名前を聞くだけでズキズキする。昨日読み終えたこの小説に、私は素手で殴られた。
「素手で」というのは殴る方も痛いんじゃないかと思ったから。
この本を読み終えた苦しみを、どう言葉にしていいかわからない。
正直、「おもしろい」小説だとは言えなくて、
私にとっては「ショックな」小説でした。
少なくとも、「キラキラしててほろ苦い、大人の階段第一歩」みたいな青春小説が読みたい人は読まない方がいいと思います。
ざっくりとした内容は、音楽一家の中に生まれた主人公が音楽科のある三流高校で、しかし同じ志を持つ仲間に出会い、恋をして成長していくというストーリーで、主人公が過去を回想する形で綴られています。
私は中学生の頃ブラスバンドをやっていて、今もまだ細々と音楽を続けているけれど、
そんな風に、一度でも真剣に音楽を演奏したことがある人は、
この物語を他人事に思えないはず。
一人で、自分に向かって音を出す時、
二人で、喧嘩しながら音を出す時、
たくさんの仲間と、笑いながら音を出す時、
音がすべてを伝えてくれる瞬間というのが
現実に、確かに、存在していることを知っていると、
よけいにこれらの描写が胸に刺さるのかもしれません。
別に音楽がテーマになっているわけではなくて、
もっと生きていくこととか、その哲学がグサッとくる小説なのですが、
音を体験する高ぶりが、ストーリーを盛り上げているのは間違いないと思います。
人生なんて真っ暗で、眩しい。
そんな気持ちにさせてくれます。
恋人が不治の病で死ぬのが悲しいなんて当たり前じゃないか!と、
生温い「泣ける」小説にうんざりしている方は是非、読んでみてください。
読んだ直後に「良かった!」とは素直に言えないけれど、
何かがガッツリと胸に残るし、多分これからも残って消えないでしょう。
すごい食べごたえです。
ちなみに、著者である藤谷治さんは明日のリーラボに登場!!!
この小説について語られるというわけではないかもしれませんが、
きっと、おもしろいお話が聞けるはずです。
入場無料・申込み不要ですので、お時間ある方は是非是非、いらしてください。
【情報館所蔵】
『船に乗れ!Ⅰ合奏と協奏』『船に乗れ!Ⅱ独奏』『船に乗れ!Ⅲ合奏協奏曲』
藤谷治著 ジャイブ
3F閲覧室 913.6||F 67 一般図書
(text:図書:meganet)