田中菊雄『現代読書法』(講談社学術文庫)
ある英語学者の読書法
「現代の」というタイトルはついているが、1893年(明治26年)に
生まれ、1975年(昭和50年)に亡くなった田中菊雄という英語学者
の書いた読書論である。
この本は1941年秋、すなわち太平洋戦争勃発直前に出版され、
1961年に改訂を経たものである。
この著者の田中菊雄という人を知る人は少ないと思うが、
『岩波英和辞典』を実質的に独力で編纂をした英語学者とのこと。
この『現代読書法』の文体はさすがに時代を感じさせるものではあるが、
決して読みにくいものではなく、本を読むことの値打ちを易しく教えて
くれている。この本を読んで驚くのは、著者の読書領域の広さである。
ニーチェ、モンテーニュ、ベーコン、ラスキン、朱熹、孔子、孟子、
本居宣長、貝原益軒、吉田松陰、新渡戸稲造、西田幾多郎等々、
洋の東西を問わず思想家達の著したものをはじめとして、
ゲーテ、源氏物語、その注釈書である湖月抄(60巻!)等の古典も読みこなし、
専門とはいえ、ダーウィン『種の起源』やシェークスピア等を原書で読む。
原書を読んだり、読書家なのは学者だから当然、と云うなかれ。
さらに驚くのは著者の経歴である。氏は、高等小学校を卒業後、
鉄道院(今のJR)に勤めながら小学校、旧制中学・高等学校の教員検定試験に
合格し、後に大学教授になり英語学者として身を立てた人である。
これだけの読書の修練と素地があってこそ、ひとに読書論を語る資格がある、
と私は思う。
『現代読書法 』
情報館所蔵:3階新書・文庫コーナー 019 Ta84 講談社学術文庫
(text:bach憧憬)