志賀直哉と文化人のサロン
古都 奈良
同じ古都とは言え、京都に比べ奈良は鄙びた風情を持つ。
その古都の東、春日山のふもとに“小説の神様”といわれた
志賀直哉の旧居がある。現在は奈良学園セミナーハウスと
して活用され、また一般公開もされている。
志賀はそこで家族と10年近く住まいし、
あの『暗夜行路』を完結させた。
志賀自らが設計をしたと言われる木造家屋で、敷地の南に配した庭園に面して
大層日当りの良いサンルームが設けてある。
ここに多くの文人が集い、その地名から「高畑サロン」といわれたそうだ。
谷崎、武者小路、小林秀雄、亀井勝一郎らの知と感性とがふれあい
数多くの名作が誕生した。
携帯電話やパソコンを通して小説が作られるこの我々の時代は、
「サロン」で交流し至福の時間を共有する、という貴重な文化を
駆逐してしまったのではないか。
そのせいか、“文豪”という言葉を久しく耳にしなくなった。
「志賀直哉旧居」は若草山を眺望できる閑静な住宅地に、今も落ち着いた
佇まいを見せている。成る程、小説の神様が愛した土地である。
『志賀直哉全集 』
情報館所蔵:地下閲覧室918.68 Sh27
&nnbsp; (text:bach憧憬)