『野菊の墓』究極の恋愛小説
こんなに純粋な恋、あなたはしたことがありますか?
伊藤左千夫の名は、おそらく歌人として広く知られていると思うが、彼はこんなに美しい恋愛小説も書いている。
川端康成の『伊豆の踊り子』と同じように、これも松田聖子や山口百恵 などの当時の「アイドル」が主人公となって映画化されているので、小説は読んでいなくても映画をみてそのタイトルを知っている人が多いかも知れない。
この小説を私が初めて読んだのは、高校1年生のとき。
私が片思いをしていたクラスメイトに薦められて、その日の学校帰りに即刻購入。
短編である。文庫で僅か、60頁足らず。
左千夫は小説が本業でなかったせいか、必ずしも洗練された文章とは言いがたいが、それだけに単刀直入に読み手のこころを打つ。
恋愛小説といっても、明治39年に書かれたもの。今風の恋ではない。
本人同士の思いよりは、親の思惑、世間体などが優先した時代。
相思相愛でありながら、その思いが成就しない、だからこそ小説として成り立ち、名作として今も読み継がれているのだが、そのせつなさ、いじらしさに涙せずにはおれない。
純粋な恋、耐える恋、などといっても今の若い人にはピンとこない話かも知れない。
しかし恋愛は人間にとって、何にもまして打算を超えたもの。
特に若いときは、これさえ叶えば他にはなにも要らない、とさえ思えるもの。
そんな一途な恋愛こそ、人間にとって掛け替えのないもの、と思う日がきっと来るはず・・・
(Text:bach憧憬)