「麒麟倶楽部」と栗田やすおさん
惜しみなく銘酒を注ぐ太っ腹バーの閉店を惜しむ。
以前に茨木市にある某大学の附属図書館で派遣職員として勤めていたころ、職場の同僚(女たらしのIくん、ブログ読んでくれてるか?)と帰りによく立ち寄ったバーが阪急・高槻市駅すぐ近くの商店街にあった。地下にあるその店は「麒麟倶楽部」といって、くだんの大企業の直営店かと思いきやまったく無関係の、わりとベーシックな飾り気のない店だった。名前も内装も凝っていない平凡に見えるバーだったんだけど、おそらくそのサービス精神は日本一だったのではないかと思っている。
なにせ京阪神の三都にあるバーなら申し訳程度にしか注いでくれず、ワンショットで2,000円近く、モノによっては3,000円もぼったくられるようなアルコールを、ショットグラスに溢れんばかりに注いでくれる気前のよさ。しかも高い銘柄で1,000円程度、本日のオススメなら500円で飲ませてくれた。僕はこの店のおかげでシングルモルト・ウィスキーの愉しみを覚えさせてもらった。おつまみにミックスナッツを頼んでも350円で大きな皿にてんこ盛りにサーブしてくれる。ホント、貧乏人にはありがたい男前のバーだった。マスターの客との距離のとり方やさりげない薀蓄の披露も絶妙で心底寛げる店だった。
しかし、あるときその店が火事に遭ってマスターの大事なウィスキーのコレクションごと店内が半焼してしまった。休業したのでやきもきしながら店の動向を伺っているとしばらくのちに再開した。僕たちは大喜びで店に駆けつけたが、やはりダメージは大きかったのか突然閉店してしまった。あまりに残念で途方に暮れてしまったのだが、いつの日かマスターがまたあの場所でバーを再開してくれることを願っているうちに月日は経ち、僕は京都精華大学で働くようになり、高槻にすら足を運ばなくなってしまった。
さて、ここからが不思議なご縁のはじまりです。なぜ、このブログ記事のサムネイル画像が栗田やすお監督作品の『緑玉紳士』なんでしょうか?(ちなみに栗田さんは京都精華大学の卒業生で、マルチメディア講演会にもお招きしたことがあります。)
講演会招聘を機に栗田さんと懇意になった現・入試課のTくんが栗田さんと再会するという話を聞いたので、バリバリ高槻っ子の栗田さんなら麒麟倶楽部に関係した情報を何か知っているのではと思い質問を託しました。すると後日、「そのマスターって栗田さんの親父さんらしいよ」という驚きの答えが返ってきました(Tくんのことなのでガセネタかもしれないけど)。なんとも不思議なところでつながっているんだなぁと、そのときばかりはスモールワールド・ネットワークを実感して軽くサブイボ((c)ヤベッチ)が立ちました。どうやらマスターは現在、店名を忘れましたが高槻市内で喫茶店をされているそうです。きっといつかお邪魔してみたいと思います。
畑は違えども好きな物事に一徹な親子・・・浮世離れしててなんかイイ感じです。
追伸:『緑玉紳士』制作をめぐる栗田さんの凄まじい奮闘の模様を所収した『メディアアートの世界:実験映像1960-2007』が国書刊行会より発売されました。ぜひご一読を。