トランシルヴァニア
旅と音楽、そして魂の解放。
もう10年近く前にイザベル・フォンセーカという女性が著した『立ったまま埋めてくれ』(青土社)を読んだ衝撃以来、僕の心の隅にはいつもロマ(マヌーシュ等の呼称があるが一般的にはジプシーとして知られる)の存在があった。そしてトニー・ガトリフという監督の新作が発表されるたびに、わくわくしながら映画館に足を運んでいた。ただ、今回の作品はチェックしながらも結局劇場では見逃してしまった・・・残念。
別れたロマの恋人を探して「ドラキュラ」で有名なトランシルヴァニア地方を旅する奔放なフランス人女性ジンガリナと、ロマを相手に貴金属売買で生計を立て車で寝泊りしながら放浪するドイツ人(?)チャンガロとの骨太なラブストーリー。
これまでの作品では、ロマを出自とする監督自身のアイデンティティやロマというエスニシティについて、アウトサイダーの視点からを余すところなく描こうと表現の可能性を模索してきた感がある。しかし、今回は男女の愛に焦点がシフトしていることもあり、従来とは異なったテイストに仕上がっている。また、旅心を掻き立てるシークエンスが満載でもあることから極上のロードムービーと捉えることもできる。
作品の質を担保する、ロマン・デュリスだとか今作のピロル・ユーネルだとか野趣あふれるイイ相貌の個性派男優をうまく主役に抜擢するガトリフ監督のキャスティングの妙にはいつも膝を打つ。
(text:情是)