第5回情報館レビューコンテスト 銅鹿賞作品1

                                                

  •   受賞者: 甲野こうさん
  •   タイトル: 『思い出す事など』
  •   著  者:   夏目漱石
  •   所  在:   3F文庫新書コーナー  
  •   請求記号:918.68 || N 58 || ち/文

 

レビュータイトル: 「大文豪、漱石のいのち」

 
 43歳の漱石は胃潰瘍をわずらい、療養先の宿で800グラムの血を吐いた。胃の不具合だけでなく、精神の変調にも苦しんだ漱石の体は800グラム分軽くなり、ふいに平らかで穏やかな気分を得る。

 病中の日記を元に書かれた随筆「思い出すことなど」は、漱石の生涯を覆う煩悶のはざまに訪れた、短い春のようだ。彼の小説を満たしている脅迫じみた道徳や倫理を超えて、素朴な思いがつづられている。人間が互いに触れ合い、離れていく流れの中で、やがて漱石は「死」について思考の手を伸ばす。胃の激痛が文字のインクから感じられるほどの切迫した記述の端々に、文豪としてではなく、人間としての漱石の存在、命が浮かび上がってくる名作。
 

受賞者コメント
 
 尊敬する夏目漱石の書評で、賞が頂けたことがとても嬉しいです。ただ、何度書き直しても、納得のいくレビューができなかった。文豪漱石の文章を四百文字以内で評する。とても難しい作業でした。 
 
作品の講評
 
 西欧と日本、前近代と近代のはざまで葛藤し続けた漱石。その彼が晩年に到達した境地こそ「則天去私」ですが、文豪や巨匠としてではなく、それを等身大の人間として漱石が受け入れたさまをありありと伝えています。(佐藤[一]先生)
 
 
  本文は、言葉を選び、レビューとしてよくまとまっていると思う。コピーはもう一工夫あってもよかったのでは。 (安藤先生)
 
 病後の漱石の書いた随筆の穏やかさと、そこに潜む「死」への思索を読み取っている好レヴューです。ただ、字数に余裕があるので、漱石の文体の魅力を伝えるために、原文から短い一文を引用してみてもよかったかもしれません。 (佐藤[守]先生)
 

 

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  •   受賞者: るーた。さん
  •   タイトル: 『異邦人』
  •   著  者:   カミュ
  •   所  在:   3F文庫新書コーナー  
  •   請求記号:953 || C 14 || 新/文

 

レビュータイトル: 「名作こそ面白くない。」

  
 冒頭で「きょう、ママンが死んだ」といきなりムルソーのママンの死が告げられる。だが葬儀でムルソーが悲しんでいる描写は出てこない。『異邦人』の命題とも言える「不条理」を頭の隅に置いて読み進めると、冒頭のこのシーンからも不条理やエゴを含んでいることがわかる。だがそれは決して「面白さ」には昇華せず、物語はムルソーが「不幸のとびら」をたたくまで淡々と第一部を消化し、第二部もあっけなく読み終わってしまった。

 これで終わり? というのが読後の感想。楽しい! というのがその次の感想。人間の心というものが物語に結びつく作品は、読後に不明瞭さが残るものが多い。さらに、これからというところで第二部が突然終わってしまい読者を驚かす。だが、語りえぬものについては沈黙、ではなく考える必要がある。本を閉じ一呼吸おいてから登場人物の心の中を考えてみてほしい。すると気づくはずだ。心を想像する『異邦人』の「楽しさ」に。
 

受賞者コメント
 
 去年の受賞者コメントで啖呵を切ったくせに去年と同じレベルの自分が恥ずかしいです。銅鹿賞ありがとうございました。
 
作品の講評
 
 あまり「面白くない」キャッチコピーである。逆説的というほどには、なっていない。まぁ、なにを面白いと思うかは、その人の力量、読む力次第だが…。面白くなるまで、面白くなるほど、読んでみてください。(田口先生)
 
 
 本文は、説明的過ぎると思う。「これで終わり?」を核として、「面白くない楽しさ」を示唆するような簡潔な文章になればよかった。 (安藤先生)
 
 
 フランス文学が持つ形式主義の胡散臭さに嫌悪感を持たず、物語の「不条理さ」に素直に反応している点に好感が持てました。 (小林先生)
 

 

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