第4回レビューテキスト(銅鹿賞)

 

 

dou.gif   銅鹿賞  春風亭 さん   

『フラジャイル』
松岡正剛著
3F文庫新書コーナー  914.6||Ma 86|| ち/学

 ≪感じやすい人たちへ≫

 まずもって松岡正剛は博覧強記の人である。古くは「遊」という雑誌から、最近のものでは「千夜千冊」という書評ブログまで、あらゆる分野、ジャンルを俎上にのせて調理(編集)する現代の「知の巨人」である。本書はタイトルの通り、古今東西の「弱さ」にみられる「多様性」を網羅した「弱さ」の一大「地図」といった趣に仕上がっている。『「弱さ」は「強さ」の欠如ではない。「弱さ」というそれ自体の特徴をもった劇的でピアニッシモな現象なのである。(中略)部分でしかなく、引きちぎられた断片でしかないようなのに、ときに全体をおびやかし、総体に抵抗する透明な微細力をもっているのである。』と「弱さ」を定義する著者は「あとがき」でこう述べている。『「弱音を吐くこと」をすすめたかったのではない。「弱音を聞くこと」を重視したのである。』君が「弱さ」のスパイラルにはまりこむか、「弱さ」から出発できるかは、この一点にかかっている。
 

【講 評】
◆弱さのスパイラルとやらにはまっているのかも!?…という不安に気付かされたら、読まざるをえませんね。(佐川)

◆「弱さ」を許容できないことこそ真の「弱さ」。優勝劣敗をふりかざしがちな昨今の日本社会の「弱さ」。わかりやすい図式の背後に見え隠れする「弱さ」というものの本質に鋭く迫っているレビューである。(佐藤一進)
 


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銅鹿賞  重 賢治 さん

『1999年の夏休み』
金子修介 監督
1F視聴室 778.21||Se 69||VHS

≪決して報われない、だからこそ美しい愛≫ 

 

 

 「君に愛されるために、僕はもう一度生まれ変わって君に会いに行く」
 謎の手紙を残して、突如学校から姿を消した少年・悠。その三か月後、誰もいなくなった夏休みの学校に残る三人の少年の前に、突然彼にそっくりの美少年が現れる。
 薫と名乗るその男の子は、しだいに彼らを禁断の愛の世界へと誘い始める。混乱の中で訪れる、至福や嫉妬、憎悪などのあらゆる感情。やがて物語は、このうえもなく美しくも残酷なラストへと走り出す。
 「平成ガメラ」「デスノート」シリーズの金子修介監督が、今から20年も前に撮り下ろした、珠玉のボーイズラブストーリー。まるで詩のような透明感に満ちた映像と、少女たちが演じる少年の凛々しさに、見る者は心を動かせずにはいられなくなる。
 報われない愛に必死で抗う、悲しいほどに麗しい少年たちの姿を、どうかその目に焼き付けてほしい。

【講 評】
◆描写が美しく、映画の、神秘的な世界を上手く伝えることに成功している。また、レビューが読みやすく、読者の興味を引く切り口で書かれている点が良い。
監督の作品紹介を入れたことで、読者の幅を広げることに繋がるであろう工夫がされている点も評価した。(辻横)

◆ミステリアスな映画のあらすじをそれに合ったミステリアスな文体で紹介しているところがうまいですね。映画の情報を紹介する時には、打って変わって冷静な文体になるところも巧妙だと思います。(佐藤守弘)


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     銅鹿賞  ほあたさん

『ハリーポッターと賢者の石』
J. K. ローリング作 ; 松岡佑子訳
3F閲覧室 909.93||R 78||1 図書

 ≪もう一度、学校へ行こう。≫
  

  初めて読んだとき、十二歳の私はハリーと一緒に魔法の世界の虜となった。
 次に読んだとき、二十歳の私は再び感動に打ち震えた。そのとき私は、ハリーたちを見守る一人の「おとな」としての視点に立っていた。
 「学校」という絶対安全な箱庭と、「外」の世界に蠢く黒い影。子供たちはそれぞれの個性を活かし、そして補い合い、闇に立ち向かう。決戦の時、助けてくれる大人はいない。教科書は攻撃を防いではくれない。しかし、授業で得た知識、宿題のために読んだ本、先生の言葉、そして友達との関わりの中で見つけた大切なこと—厳しい現実と対峙したとき、それらが彼らにとって最大の武器となるのだ。
 《学ぶ》とはどういう事か?
 本作は、教育大国イギリスのシングルマザーが書き上げた、子供と、その教育者のための児童文学書である。

【講 評】
恥ずかしながらハリーポッターシリーズは未だに未読です。その上、映画も見たことがありません。「学校」「学ぶ」「ともだち」…最近めっきり遠い世界になってしまいました。
しかし、『そうか、主人公たちを見守る大人の目線で呼んでも良いのか』と思わせてもらいました。一度読んでみなくては。(前田)

【受賞者コメント】
この度はありがとうございます。大人になっても子供向け作品に傾倒している事を正当化するための言い訳として書きました。深読みしなくてもハリポタは面白いです。


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  銅鹿賞  少年少女アレグロさん 

『ル・オタク フランスおたく物語』
清谷信一 [著]
3F文庫新書コーナー 778.77||Ki 93||講/文

≪フランス、情熱、綾波レイ。≫

 

 日本のアニメや漫画等のいわゆる「おたく」文化を、僕は別段誇らしいものとは思わないし、むしろ恥ずべきものだと思っている。
 好い年した大人が美少女フィギュアに囲まれ、「萌え〜」なんて言いながらニヤニヤしてる姿は明らかに異常だ。相当キてる。
 しかしこんな人間が、海を越えたフランスで増えているらしい。
 フランスといえば、「ボンジュール」で華々しくて情熱な国だ。そんな国で、今おたくが熱い。アニメのDVDやキャラクタグッズを収集し、美少女フィギュアに囲まれて「Moē」なんて言っちゃてるのだ。コスプレしてアニソン歌って……ああもう駄目だ、この国……
 そんな日本の毒牙の餌食になったフランスの、現状を綴った一冊。
 今、おたくが熱い!……のかなあ?

【講 評】
恥おたく批判ばかりなのですが、それが印象的でした。海の向こうの国はおたくたちで駄目になってしまったのだろうか、自分の目でも確かめてみようと思わせてくれました。(山北)


 

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   銅鹿賞  双沖 さん 

 
『チグリスとユーフラテス』
新井素子著
3F閲覧室 913.6||A 62 図書
 

 ≪『こんな時代』に生まれてきたかった? 

 

 惑星ナインへ辿り着いた人類の発展と崩壊を逆から辿る年代記。発展はした。けれど、その世界に理不尽にも『子供が産まれない時代』がやって来る。そして、ついに産まれてしまった『最後の子供・ルナ』。たった一人残され、老婆になってまで自分を「ルナちゃん」と呼ぶ、永遠に子供であることを宿命づけられた少女。ルナは、怪我や病気でコールドスリープしている女性たちを起こします。目覚めた彼女らは自分の時代をルナと過ごしながら回想する。様々な時代。出産が制限された時代だってあった。そして、惑星の歴史すべてを知った読者は問われるのです。最後は滅亡。『こんな時代』に生まれるのは幸せ?と。テーマは重いけれど、はっちゃけた文章で雰囲気は明るい。目から鱗の設定に、話がどこに転がるかわからない緊張感とテンポのよさ。始まりと終わりを含んだ、ひとつの惑星の物語。『こんな時代』のこと、考えてみるのも一興です。

 

【講 評】
内容紹介がまとまっていて、読む気にさせる。ということは、本がきちんと読まれたということである。この単純な事実はすごく貴重だ。(島本)

 【受賞者コメント】
すこしでもこの本に興味を持って、手にとってもらえたら、嬉しいです。


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