第4回レビューテキスト(銅鹿賞)

 

 

dou.gif   銅鹿賞  82 さん   

『きいろいゾウ』
西加奈子著
3F閲覧室 913.6||N 81図書

 ≪279ページうしろから5行目≫

 3回読んで、3回とも同じところで泣いてしまったから、今はページをめくるだけで胸がきゅうっとしめつけられる。だけど、それでももう一度この本を手にとってしまうのは、悲しいだけのお話じゃないから。悲しみ、喜び、驚き、恥ずかしさ、笑い、怒り、苦しみ、さみしさ、いらだち、憎しみ、愛しさ、恋しさ、、、人間が持ち得るすべての感情がこの本にはつまっているから。あたたかくて、優しくて、厄介で、尊くて、ずるくて、たくましくて、弱くて、不完全だから完璧な夫婦が本の中で待っているから。
 だから私は何度でもこの本を読む。何度でも同じところで泣いて笑って、何度でも新しい発見をする。
 ぜひ一度、この本を読んでみて下さい。
 そして、何度でも読みかえして下さい。

【講 評】
キャッチコピーが独創的。不完全だから完璧な夫婦、どんな人たちなのか知りたくなる。(安藤)


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銅鹿賞  すずきりゅーた。 さん

『すべてがFになる : The perfect insider』
森博嗣 [著]
3F文庫新書コーナー 913.6||Mo 45||講/文 図書

≪「先生…、現実って何でしょう?」≫ 

 

 森博嗣の書く推理小説は他の物とは一線を画す。作品の至る所に見られる美しい表現がそう感じさせる。高貴な美しさではない。素朴な、身近な美しさだ。まるでその美しい表現で事件の鍵を隠そうとしているかのようでもある。私はこの作品に推理小説の醍醐味である「驚くべき犯人・トリック」を求め、読み始めた。だが読み進めていくうちに、それらは些細な問題に過ぎないと感じるようになった。トリックが難解すぎて諦めたわけではない。工学部助教授の犀川創平と西之園萌絵の哲学的なやり取りが犯人やトリックよりも興味深いものだったからだ。「現実とは何か。と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ」犀川の答えは私の持ち合わせていた答えとは発想その物が違い、そのような発言がいくつも飛び出し、私はそのどれに対しても律儀に感嘆の声をあげていた。だが次の瞬間に告げられた犯人の名に私は声を失った。そう、思い出した。これは推理小説だ。

【講 評】
読書中の読み手の感嘆と驚きを素直に伝えることで、一緒に読みたい気にさせてます。(その気にさせられたのに、貸出し中…)(佐川)

【受賞者コメント】
出来上がったレビューを何度読み返しても過去の金鹿賞作品に及ぶ物ではありませんでした。たった400字のレビューで人を感動させ、最高に格好付けた文章ばかりの金鹿賞。素敵です。そこに入れなければ満足などできません。来年こそ、自分を満足させてみせます。


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     銅鹿賞  CRS さん

『猫の事務所』
宮沢賢治作 ; 黒井健絵
3F絵本 726.5||Ku 73 図書

 ≪気付けよ、お前らが一番みっともないことに≫
  

 この世に平等な世界なんてない。この話の舞台である猫の事務所だってそうだ。猫の事務所には事務長と4匹の書記がいる。その中に、寒さに弱い1匹の猫がいる。彼は夜かまどの中に入って眠るため「かま猫」と呼ばれている。からだが煤で汚れているので猫仲間からのきらわれ者。いくら仕事ができて、気が利いても、他の書記からいつも何かと理不尽なことを言われてしまう。唯一の職場での救いは事務長だけであったが…。
 ただの猫の可愛らしい童話だと思えば大間違い。猫を通して見えてくるのは人間の汚い世界。
 この世に平等な世界なんてない。差別は存在し続けている。でもそれは一体何の意味があるのか?そのことを読み終えた後、自分自身に問いかけて欲しい。

【講 評】
レビューに自身の解釈が反映されており、言葉も自分の言葉で書かれている点を評価した。文章に勢いがあり、本を手に取って読んでみようと興味を持たせる内容であった。また、読者に厭味なく課題を提示しており、より興味を持たせる工夫ができている。(辻横)

【受賞者コメント】
ぎりぎりに応募したにも関わらず、応募したことをすっかり忘れていて、びっくりしました(笑) 良い思い出になりました。ありがとうございます。


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  銅鹿賞  甲野こう さん 

『老人と海』
ヘミングウェイ[著] ; 福田恒存訳
3F文庫新書コーナー 939.37||H 52||新/文 図書

≪老人と少年≫

 

 満身創痍で疲れ果てて眠る老人の傍らで、少年は声を立てて泣いた。老人は深い眠りの中で、砂浜のライオンの夢を見ていた。
物語の終わりにこんな場面がある。少年は老人のことを何より大切に思っている。しかし老人は簡単には癒せない傷を心にも体にも負ってしまった。少年はすぐにでもその傷を取り除いてやりたい、そのためならばなんでもしてやりたいのに癒してあげることができない。だから少年は声を立てて泣く。
けれども老人もまた、少年を愛している。だから少年と言葉を交わすと、安心してライオンの夢を見るのだ。
こんなに美しいエンディングは、見たことがない。痛々しい程に激しい老人の孤独な戦いの物語が、信じられない位静かで穏やかな終わりを向かえる。何とも言えないこの読後の気分を、あなたにもぜひ味わってほしい。

【講 評】
老人と少年の心の交わりが、飾りのない文章によってしみじみと映し出されている。筆者のこの物語への思い入れが心地よく伝わってきました。(小林)


 

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   銅鹿賞  タミー さん 

 
『リトル・ミス・サンシャイン』
ジョナサン・デイトン, ヴァレリー・ファリス監督 ; マイケル・アーント脚本
1F視聴室 778.23||R 48||DVD DVD

 ≪黄色いワゴンが救うもの≫ 

 

 こんなにも救えなくて、優しい映画を私は知らない。
 恋人と別れて自殺未遂をしたゲイの叔父。全てを勝ち組と負け組に分けようとする父。老人ホームを追い出されたヘロイン中毒の祖父。ニーチェを愛するあまりに、半年間言葉を発さない兄。バラバラの家族に疲れながらも何とかまとめようとする母。それぞれにどうしようもない家族が、デブな妹”オリーブ”のミスコン会場を目指して黄色いワゴン車に乗り込んだ。
 黄色いワゴンはボロボロで次から次にハプニングが起こる。ついにはギアが壊れ、皆で押さないと発進もできなくなってしまう。
 救いようのない家族が、救いようのない物語を走り抜ける。ただそれだけのことなのに涙が出るのは何故だろう。オンボロのワゴンが夕日に吸いこまれていくのを見終えると、明日からまた生きていけると、余韻に浸る暇もなく、私は思うのだ。

 

【講 評】
◆ストーリーの単なる紹介ではなく、黄色いワゴンという物体を、短い文章で伝えることで、これが映画であり、それも見たくなるような映画であることを伝える。(島本)

◆ステレオタイプなロード・ムービーではなく、可笑しさと啓示に満ちた作品ということを教えてもらいました。インディペンデント映画の醍醐味ですね。(小林)

 


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