第3回レビューテキスト

 

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銅鹿賞 甲野 夜 さん 
『変身』(カフカ著)

 

 

来たるべき「変身」の時にそなえて

夜、眠りにつく前に、少し想像してみて下さい。あなたは、次の日の朝も、今の自分のままで目覚めることが出来るでしょうか?
もし、翌朝目覚めた時、あなたがあなたでなくなっていたら…例えば、この本の主人公のように「ばかでかい毒虫」に姿を変えていたとしたらー?
恐しいと思いませんか?
理不尽だと怒りませんか?
この変身という話は、そんな絶望的な物語がカフカの淡々として、かつユーモラスな文章で描かれています。
ありえない物語の、始まりの一文に、あなたは絶対に目をうばわれるはずです。毒虫に”変身”した主人公がどう行動するのか、周りの人間にどう扱われるのか。次の日の朝、自分が自分でなくなっていた時のためにーぜひ読んでおくことをおすすめします。

【受賞者コメント】
このような賞をいただき、有難うございます。相手の気分を変えるような文章を、という目的を持って書いたのは新鮮な感覚で、勉強になりました。


 

 

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銅鹿賞 尾崎 瑛子 さん 
『その男ゾルバ』(マイクル・カコヤニス監督)

 

 

あなたはもう、出逢いましたか。

 自分の人生は、他でもない自分自身が拓いていくものです。しかし、人生に「影響」を与えたのは、自分自身だけではなく、他にも人物がいたのではないでしょうか。
自分の人生に大きな「影響」を与えた人物、すなわち「運命の人」に、あなたはもう、出逢いましたか?まだ出逢っていませんか?出逢いたいとは思いませんか?
ゾルバの優しさは、少し投げやりで自分勝手で、それでいてとても愛しさを感じます。本能のままに生きるゾルバ。机の前に居るのが似合う、作家のバジルは、”その男ゾルバ”の影響を受けて、「ダンスを踊る」ような男へと変化を遂げます。
あなたには、ゾルバを雇ってみる「勇気」はありますか?出逢ってみませんか、その男ゾルバに。

【受賞者コメント】
銅鹿賞、ありがとうございます。正直なところ、「大袈裟に書きすぎたかな」という気がしていますが、新たな出逢いの「機会」を提供できた、それできっと良いのだ、と考えています。


 

 

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銅鹿賞 舘 謙太朗 さん 
『蝶々の纏足』(山田詠美著)

 

 

ねぇ、恋って知ってる?

瞳美の心は縛られている。幼馴染みのえり子によって。えり子は確固たるプライドと歪んだ愛情でもって、瞳美に纏足を嵌める。抵抗をするも、まるで蜘蛛の巣に捕らわれた蝶々のようにがんじがらめになっていく瞳美。そんな彼女に恋人ができ始めた頃、徐々に二人の関係は変わり始めて・・・。
少女から大人の女性へと変貌する時期の揺らぎを見事に掬い上げ、閉じ込めた一冊。初恋に伴う甘い歓楽。誰かへの胸が詰まるほどの憧憬。もしくは、嫉妬心。これらの感情を一つでも抱いたことのある人は、きっとこの本を楽しめるはずだ。読了後には、自らの過ぎ去ってしまった日々とこの物語とを重ね合わせ、言葉に尽くしがたい切なさを味わうことだろう。


 

 

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銅鹿賞 沖 春菜 さん 
『草の上の仕事』(篠原哲雄監督)

 

 

主人公はもはや草・・じゃ、主草公・・・。

 草・草・草、一面草っぱら。
緑・緑・緑、ひたすら緑。
そこでただ草を刈る男達。キャリアを積んだ先輩と、その日限りのやる気無さそうなバイト(太田光)。登場人物は、この2人のみ。最初は2人の間に険悪な雰囲気が漂っていたが、段々草が刈られていくうちに、どんどん2人の距離が縮まっていく。しかし最後まで特に何も起こらない。
映画を見終え、真っ先に思った事、「監督、何がしたかったんだ?」でも無駄な時間を過ごしたとは微塵も感じなかった。
見る人によって感じ方はそれぞれだと思うが、私は何故か無性にムラムラした。(草むらだけに・・・?)


 

 

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銅鹿賞 植木屋 さん 
『ニッポン無責任時代』(古澤憲吾監督)

 

 

日本よ無責任になれ!?

「ニッポン無責任時代」なんとフザケたタイトルだろう。しかし主人公の平均と書いてタイラヒトシの中身はもっとフザケた男なのである。スーツを着こなす姿は一見普通のサラリーマン。だがその行動は酒代を赤の他人に押しつけるわ電車は無賃乗車するわ軽やかにステップ踏んで自己称賛歌を歌い上げたかと思うと拾ったシケモクを人の長タバコとすり替えるわ乗っ取られかけた酒造会社に何の関係もないのに潜り込み引っ掻き回して去っていくわ、とムチャクチャ。なんだこの無責任男は!こんな奴が日本をダメにする!・・・なーんて思うより前に「こうなりたい!」と願わずにはいられなくなってしまうかも。無責任男は猛烈にパワフル。過剰にパワフル。失敗しても次がある、次がダメでも今度がある。そんなお気楽さと根拠の無い自信と行動力に観ている方が救われてしまう。今の日本こそ無責任?いやいや中途半端だ。本物の無責任はパワーに満ち溢れているのだ。

【受賞者コメント】
ニッポン無責任時代の挿入歌曰く「人生はタイミング」だそうです。ついでに「C調と無責任」だそうです。今回賞をいただけたのはタイミングが合ったんだと思います。


 

 

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銅鹿賞 オカミ さん 
『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(五味太郎著)

 

 

甘ったれていてはいけません。

 この本は当たり体に言ってしまえば「お悩みQ&A本」なのです。ただし、五味太郎の記すAはありふれた実用書等とは全く異なります。物事についての幅広い見方と、善悪を押しつけるのではない、自分なりに考えて行動に結びつきそうなヒント……この本には薄ら寒い綺麗事ではなく、ユーモアやウィットや皮肉にくるまれた言葉がたっぷりと盛り込まれています。
嘘ばかりの踊り回る今のこの世界は、つまらなく、醜く、馬鹿らしいです。
ならばせめて、私たち若者は、じょうぶな頭とかしこい体を手にしましょう。世間は冷たいのでもう誰も、私を探し出してはくれないのです。ーー何が正しくて、何が間違いなのかーー自分は何のために何をしようとしているのかーー何故、彼らは自分にこのように言うのかーー
貴方は誰かに言われたからではなく、自分の頭で考えていますか。

【受賞者コメント】
どっきり致しました。わーいわーい。正直、あまりレビューの意図を掴めていない文章かと思っておりましたが……目に留めて頂き、なんて幸運!有難う御座いました。


 

 

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銅鹿賞 吉良 伊都子 さん 
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(ジム・ジャームッシュ監督)

 

 

負け犬こそが美しい。

これは、汗一滴も流さない青春映画だ。
ノーセックス、ノーバイオレンス。特に何が起こるわけでもないストーリーが、最小限のセリフと、ワンシーン・ワンカット、粒子の粗いモノクロ映像で展開されてゆく。この上なくシンプルで、観終わった後の清涼感と、ジワジワ来る可笑しさがある。
天国より不思議な国、アメリカに生きる三人の若者。特に働くわけでもなく、独りでトランプをしたり、ギャンブルに金を注ぎ込んだり。アメリカンドリームに夢見るわけでもない。アウトローであり、負け犬だ。
けれど、言わば社会の成功者たちよりも、人間らしい自由な生に喜びを感じ、何者にも束縛されない、すがすがしさ。
こんなにカッコ良く負け犬をされてしまっては、ちょっと困る。

【受賞者コメント】
文章にするのが空しい気持ちになるくらい、素晴らしい作品なのでレヴューは大変でした。この映画がより多くの方に観てもらえるなんて、それだけで、なんかニヤリとしちゃいます。


 

 

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銅鹿賞 人見 渓都 さん 
『乳と卵』文藝春秋三月特別号(川上未映子著)

 

 

小説と哲学の結婚

この作品は第138回芥川賞受賞作品です。しかし、世聞の評価なんてどうだってよいのです。私がこの作品について皆さんに最も伝えたいことは、この作品が小説と哲学を上手にミックスさせた新たなジャンル「哲学小説」だということです。字面だけ見ればなんとも難解そうですが、それは違います。小説として読み進むにつれて、ところどころに発芽した哲学が読み手の身体に絡み付いてくるのです。それは誰しもが子供の時に一度は考え恐くなったであろう、人間は死んだらどこへゆくのかといった答えのない問い。この小説は、考えることをやめた大人達へ、もう一度問うてくるのです。それは本当ですか?と。


 

 

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銅鹿賞 スバル さん
『モンティパイソン・アンドナウ』(モンティ・パイソンズ)

 

 

このバカ、一見の価値あり

 フルーツの危険から身を守る護身術?
近年増加する不良バアさん問題?
死んだオウムを売った事を認めないペットショップに上流階級で一番の馬鹿を決めるレースだって?!
「一体なんのこと?」とお考えのあなたはどうぞこちらへ。モンティパイソンズの世界へご案内します。
時にシュール、時に風刺、時にナンセンスと様々な切り口で演じられるコント。その根底にあるのは揺るぎない一本筋の通ったバカ。バカなことをバカのままに貫く態度はありとあらゆる権威と常識をひっくり返す。そのスタイルはまさにトリックスター!
一度見ればそのバカさに困惑し、二度見ればそのバカの鋭さに感心し、三度見れば中毒確定。もうあなたは逃げられない!


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