第3回レビューテキスト

 

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金鹿賞 綾波 レイ子 さん 
『THE FLY』(David Cronenberg監督)

 

 

本当の愛はどんなんだい?

 物質転送の実験での事故により遺伝子レベルで蠅と融合してしまったブランドル博士。しだいに肉体と精神に異常が表れ、やがて彼は蠅男となってしまうー僕が初めてこの映画を観たのは小学三年生の頃だった。滴る体液、腐り落ちる肉、うじ虫の出産シーン、大人でさえ目を覆いたくなる場面はずっと僕の脳味噌にこびり付いていた。情報館で見つけ、久しぶりに見てみることにしたのだが僕は泣いてしまう。恐怖にではない、愛にだ。
謎の病に侵されたブランドルとそんな彼の子供を授かったベロニカに、監督のデイビット・クローネンバーグはHIV問題を投影させた。小三の僕には見えなかったものが見えてきた。フライはそんじょそこらのホラーとは違う。グロテスクで、エロスで、人間臭くて、我儘で、愛と嫉妬に溢れている。ときめく乙女よ、貴方は汁まみれで腐臭を放つ蠅男を抱き締めることができるだろうか?
フライ、それは恐ろしい程LOVEなホラー映画。

【受賞者コメント】
この度このような賞を頂けることとなり真に嬉しく思っております。レビューを読んでくださった皆さん、図書カードをくれる情報館さん、三重のお父さんお母さん、そして愛しき蠅男に心から感謝いたします。


 

 

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銀鹿賞 日高 伶 さん 
『日本の詩集 17 谷川俊太郎詩集』(谷川俊太郎著)

 

 

宇宙と人心を詠う『言葉の亡骸売り』

ポエムなんて、イタイし恥ずかしい。
そんな意見を否定しない。だって中学生の頃に書いた、あるいは読まされたポエムは人生の恥部、暗部レベルで恥ずかしい。本に載ってるのはワケがわからないし。
ホント、ポエムって…(笑)
そんな経緯でポエムの存在を打ち捨てた者たちよーーー

 かわいそうに! 哀れんであげよう!

詩が恥ずかしいのは、それが素っ裸の心だからなのです。
自分の感慨を紙面に綴り、大衆にご披露するなんて心を切り売りするにも
等しい行為。
……買ってやろうじゃないか!
この本に綴られている心は、どれも良質で、時を経てもなお新鮮だ。
そこには彼の哀愁と希望がある。いつも死を見つめ、日常の中に逐一宇宙や
世界を見つける。幸福、不幸の分別ができない。鳥と親しくて、空はいかが
わしげな敵。
これらの世界観が、この本を読み終えた人間の背中に、そっと翼を生やして
くれる。


 

 

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銀鹿賞 根山 さん 
『サイレント・ガーデン_滞院報告・キャロティンの祭典』(武満徹著)

 

 

生きて、食べるこことはなんとも豊かだなぁ

食べることは生きることであるとか、生きることはたべることであるとかよく言われるが、生きて、食べることはなんとも豊かなことだなぁと思う。「サイレント・ガーデン_滞院報告・キャロティンの祭典」は音楽家である武満徹が病床で記した日記と並行して書かれた51の絵入りレシピで構成された可愛らしくも、静かな佇まいを持つ本である。日記では、日々の出来事、奥さんやお見舞いのお客さんとのやりとり、音楽の話、そして病気の痛みが淡々と綴られていく。そんな中、楽しみとして家で作るご飯のレシピを静かに書き残していく。武満徹とゆう人は、自分はそんなに食べないのに、人と鍋を囲んで話すことがとても好きな人だったとそうだ。51のレシピは丁寧にきっちりと色鉛筆で着色された何とも愛らしい、美しいレシピとなっている。何のために食べるのか。サイレント・ガーデンは武満が残した、生きることへの美しい二重奏である。


 

 

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銀鹿賞 みたらしうどん さん 
『阿修羅ガール』(舞城王太郎著)

 

 

愛と文章の濁流に呑まれろ

ハチャメチャ、お下品、破天荒。この作品を表す単語を並べ立てればこんなところだろうか。下世話な現実と乙女な理想の狭間で、恋愛にチクチク悩む女子高生・アイコ。そんな彼女の奇天烈かつバイオレンスな、混沌たる愛の物語である。
一行目から轟々と繰り出されるのは、継ぎ目が少なくPTAが顔をしかめそうな女子高生口調そのままの文体。でも読んでいると不思議と読み辛さを感じさせない。目が文章の上を疾走する。ダッシュで読み取った文章が、側頭部から入ってきて頭の中でとぐろを巻く。
そしてまるで毛色の違う三部構成。アイコの日常がヘンテコバラエティアクションに変わり、更に残酷な北欧怪奇談へ。そんな異端、壊滅、真っ逆さまな筋書きも最後は一つに収束する。それまでの騒々しさとは打って変わったラストの穏やかさが、読み終わりのホッとした気分にしんみりマッチするーー
型破りという言葉すら粉砕しそうな、この破壊力を見よ。


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