広告美術のクリエイティブとは ―オルタナティブ・スペースからの発信-:マルチメディア講演会

講演:井上仁行、ヨシタケシンスケ (studio BIG ART メンバー)
日時:2004年10月25日(月)16:30〜 18:30
会場:京都精華大学情報館1階AVホール

入場無料・申込不要

講演要旨

[studio BIG ART]1998年設立。4階建ビルの中にアトリエ、イベントスペースを設け、創作・発表活動を行うオルタナティヴ・スペース。発足当初は数名によるシェアで運営費を賄っていたが、実験的に運営方法を修正しており現在はデザイン・広告美術業「スタジオ・ビッグアート特殊工作部」が全ての運営を取り仕切っている。
デザイン業のかたわら、「Art Development」活動として貸アトリエ、企画イベント、貸画廊といったアーティスト、デザイナーのための支援活動を行っている。
中心メンバーである井上氏とヨシタケ氏が「studio BIG ART」の全貌を語る。

プロフィール

井上仁行(イノウエマサユキ)

1996年 筑波大学芸術専門学群・総合造形卒業。明和電機、コンペ事務局などのアートマネジメント業務を経て、1998年「studio BIG ART」を設立。
貸しアトリエやイベントの企画・運営、及び広告美術・立体イラスト・原型制作などの工房運営、若手の育成を行う。

ヨシタケシンスケ

1998年 筑波大学大学院 芸術研究科総合造形コース修了。同年「studio BIG ART」に参加。
広告美術・立体イラスト・原型制作などの造型業務を行う傍ら、個展や書籍などでイラストレーターとしての活動も行う。

講演レポート

横浜市神奈川区内にあるStudio BIG ART。それは複数の共同出資者により運営しているマルチ・スペースの名称である。現在運営を中心的に取り仕切っているのはそのビルの2階を占める特殊工作部、井上仁行・ヨシタケシンスケさんのお2人。今回はStudio BIG ARTの活動内容、2人の仕事内容などをスライドショーで見ていくかたちとなった(プラスαにホワイトボードも活躍)。

まずはじめに、Studio BIG ARTがどんなことをしているのかという説明からはいった。そこではオルタナティブ(既存のものととって代わる)スペースにてアーティストが集まりNPO 的な活動をしているといった話であった。そのアーティストとはグラフィック・建築・かばん作家などさまざまで、アートだけに留まらないことを目指しているのだそうだ。

ビルの写真を映し、1階がギャラリースペース、2階がデスクワークスペース、3階が工房、4階が個室、そして屋上と犬、と部屋の中などの説明があった。

次に、どんな仕事をしているのかということで、手がけた仕事をスライドでどんどん見ていった。プレイステーションのゲーム「SCE」の広告美術制作にはじまり、NISSAN「セレナ」のジオラマ制作、ソトコトの表紙のオブジェ制作、TWO DOGの砂漠のチラシ、エビアンの背景をつくった広告、SONYの電子辞書の広告と、もりだくさんの内容だった。そのひとつひとつに、制作風景の写真とそれに通ずる説明がていねいにあり、苦心した部分やアイデアなどが語られた。

こういった広告のポスターがどういった手順で出来上がっていくのか、その手順をホワイトボードで説明があった。グラフィック広告のだいたいの流れである。まず、SCEという商品が出る(クライアント)→広告代理店にオーダーがくる→広告代理店にいるデザイナーがアイデアをプレゼンテーションしたり、クライアントがオリエンテーションしたり、ということをくりかえす→デザインが決まったらデザイナーがカメラマンやモデル(オーディション)・スタイリスト・ヘアメイク・美術制作者を誰にするのかを決め、スタッフをそろえていく→撮影→印刷(ポスターだと紙をどんなものにするのかも選ぶ)という流れになる。

デザイナーというのはアイデアを出したりスケッチをするだけではない。クライアントに、なぜこういうデザインになったのか、デザインについて説明をして説得させるプレゼンの能力が必要となってくる。デザイナーはすべての進行のまとめ役であるということをおっしゃっていた。ちなみに広告代理店というのは大手でいうと電通とか博報堂とかがある。

次に、立体イラストの仕事の説明へと移る。立体イラストというのは、真っ白なところからデザインを考えて決めて制作してつくる。雑誌の特集などで非常にぼんやりとしたイメージを言われ、時間も予算もないのでかたちから設定を考えたり、と試行錯誤する過程などが語られた。ここでも作品をひとつひとつ映し、 ABロード名古屋航空特集、リクルート住宅特集などがあった。

もうひとつやっている仕事というのが、ストラップの人形などのいちばんの元となる原型制作。量産する工場、デザイナー、おもちゃ会社などにチェックされ、そこでオーケーをもらわなければいけない。非常に厳しい大変な仕事だと言っていた。あとはチョロQの原型をつくる行程などの説明もあった。

仕事の内容はこのあたりで終わり、その他にギャラリー内でのイベントの紹介、ヨシタケさん個人の活動や展覧会の内容などの話があった。

そして会社を設立して現在に至るまでの波瀾万丈な歴史が語られ、そこではポートフォリオの重要性をとくに力を入れて話されていた。ものをつくることも大切だけれど、それを人に伝え説明することも大切なことである。名刺をつくったり、ポートフォリオをつくったり、そういうことをすることで自分を知ってもらい仕事を得ていくのだと。就職活動をする上などでとてもためになる内容だった。

今回の講演会では、ふだんなにげなく見ている広告などが、どんな素材でどんな人たちの手でどんな手順を追って街中に出ているのか、まるごとみて聞くことができた。講演後にはStudio BIG ARTのポートフォリオを見せてもらったり、ヨシタケさんの作品集を見たり、質問をしたりと2人の回りには人だかりができており、最後までとても充実した講演会であった。

文:武宮里子(人文学部)


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