女性の感性とは? -「おんなたちの映画祭」から-:マルチメディア講演会
日時:2004年10月21日(木)16:30〜 18:30
会場:京都精華大学情報館1階AVホール
入場無料・申込不要
講演要旨
山上氏が撮影クルーとの共同作業のなかで感じる「他者の感性」に対する違和感。 女性/男性という性差を超え、女性/女性という関係からも生じる様々な問題点を炙り出す、 <現場>にこだわった講演会を予定しています。
また「おんなたちの映像祭」で出会った韓国や台湾の女性監督ら<世界のおんなたち>との交流についてもお話を伺います。 後半では、「女性の感性とは何か?」をテーマにディスカッションをおこない、映像作家を志す参加者たちとの対話を通じて、全員でこの「女性の感性」について考察したいと思います。
プロフィール
山上 千恵子(やまがみ ちえこ)
1982年 '82 優生保護法改悪阻止の記録「女たちは元気です」制作
1999年
非営利のビデオグループWORK-INN設立(財)横浜女性センターのビデオ制作(92年まで)「元気ですか? からだのリズム」「中絶1・からだ編『医療としての人工妊娠中絶』」「中絶2・こころ編『わたしを生きるために』」他11本
1991年
世田谷区女性センターらぷらすビデオ講座講師(93年まで)
1993年〜2000年まで
フリーランスとしてテレビ番組のドキュメンタリーやトーク番組のディレクターとして制作にかかわる。テレビ朝日親の目子の目(民教協)NHK衛星2日曜スペシャル「ケニア・エンザロ村の歌声響く」(共同演出)
1999年
東京都ウィメンズプラザのビデオ講座講師
2001年
自主制作ドキュメンタリー「Dear Tari」制作(42分)ソウル女性映画祭、アジアショートコンペチション観客賞受賞台湾女性映画祭招待作品として上映
2002年
ドキュメンタリー「女たちの回復ーー女性のアルコール依存症」演出(株)ジェムコ出版企画制作作品など
講演レポート
今回のマルチメディア講演会は、前半は講師としてお迎えしたドキュメンタリー映像作家の山上千恵子さんのお話を伺い、後半は山上さんを中心として参加者全員による討論会を行う、という少し変わった形式で進められた。討論会、と聞くとどうしても身構えてしまう人が多いが、長年フェミニズムに携わり、自分なりの考えを持ち続け戦ってきた山上さんは、講演会内で討論会を開くことによって、「自分の感覚でものを見ること」というメッセージを、我々により強固に伝えたかったのかもしれない。
ドキュメンタリー映像作家の山上千恵子さんは大学を卒業してすぐに映像制作の道に入ったわけではなく、38才の時に当時普及し始めたホームカメラを使って、参加していた女性運動の集会を頼まれてカメラに収めたり、という身近な作品づくりをはじめたことがきっかけだったそうだ。そのうちに、一緒に暮らしていたパートナーとどうコミュニケーションを取っていくかという実験を収めた作品がコンペで入賞したり、優生保護法の改悪を阻止するデモを追いかけた初の自主制作作品「女たちは元気です」を発表したり、その後横浜女性フォーラム依頼のビデオ制作を経て、テレビの映像制作の仕事もこなすようになっていった。が、上記のような経緯を経て常に自分の感性でものを見、作ってきた山上さんはそこで強い違和感を感じたという。
例えばインタビューの際に相手の緊張を解かせて話を引き出そうとする時間などは無駄だと決めつけられ、必要な質問のみをぶつけるように指示されたり、山上さんがおもしろい意見が引き出せた、と思っていた部分に限ってカメラマンが勝手にカメラの電源をoffにしていたり、というようなことに。他のスタッフに言わせると山上さんの努力は「テープの無駄」ということになってしまうらしい。テレビ業界の仕事では効率ばかりが求められ、物事の奥ゆきや、真の姿というものに触れようという努力がなされていなかった。そして「こうあるべき」という世間の多数が求めている像に沿って映像を構成したがるのだという。本来、もの作りの現場では常に新しいものの見方をしていくことが歓迎されるはずであるのにもかかわらず。ここで講演会中初めて「感性」という言葉が飛び出すのだが、山上さんは男女問わずこの業界で一緒に仕事をしてきた多くの人たちに対して「感性の悪い奴等だ!!」と感じたという。この講演会のテーマは「女の感性とは」だが、男性、女性という枠を超えて、自分の撮ったものに対する責任よりも効率ばかり求めるもとめる業界人に、違和感を感じたそうなのだ。テレビ業界で働く多くの女性の感性にも違和感を感じたことからも分かるように、感性というのは性別で区切られるものではないらしい。
講演会のテーマになっている「女性の感性」というものが実際にあるものなのかどうかは山上さん自身にも分からないそうだが、2001年にソウル女性映画祭に参加した折には、「もしかして女性の感性ってこういうものかな?」と感じる経験をしたこともあるという。ソウル女性映画祭にはセクシャリティーやジェンダー、女性に対する暴力を扱った作品などが多く出品されていたが、出品者が監督として、という以前に、一人の人間としてどういう生き方をしているのかが滲み出るような良作ばかりだったという。制作者と作品の間に何の違和感もなく、山上さんは会場を包み込む雰囲気に何とも言いようのない心地の良さを感じたそうだ。また、その後台北の女性映画祭に参加したときにも同じことを感じたという。
自分の感性を大切に守りながら作品を作っているクリエイターが多数存在することを知った今では、山上さんはテレビの仕事はほとんど引き受けず、自主制作としての作品を中心に作っているという。実際に、世間で主流とされているものと外れた作品の企画書を会社に提出しても通らないことが多く、この方法で作品を作っていくしかない現実がある。だが自分の思うところを作品にしようと自主制作への道を踏み出す人間は増えており、山上さんは現在、そういったクリエイターたちを応援するために、自分の感性で制作活動を行っている女性監督の作品を上映するフェスティバル「女たちの映像祭」の実行委員として奮闘されているそうだ。
これらのお話を拝聴してから参加者全員の討論会に入ったのだが、山上さんが一つの答えを押し付けるような講演をしなかったこともあってか、討論会というよりは各々が活発に自分の意見を発信する意見交換会、という感じで進められた。主流の意見をまとめてみると「感性や性格、ものの見方というのは個々の経験から作られていくが、男女でする経験の違いというものからくる感性の差は存在するだろう」というところだろうか。それが男性の場合効率論に走りやすいのかもしれない。討論の終わりがけに、「いつか男性、女性の文化が融合してどんなものが生まれるのか、その先を見てみたい」という意見を発信した男性がいたが、本当にその通りだと思う。時間はかかるだろうが、いつかその新しく生まれた感性を見られる日が来たらおもしろい、と思う。
撮影 / 文:籾山知里(芸術学部)