レンズを通して見えてくる世界 -身近な自然・遠い自然 イヌイットの今を中心に-:マルチメディア講演会

講演:安田守(ナチュラリスト写真家)
日時:2004年7月5日(月)16:30〜 18:30
会場:京都精華大学情報館1階AVホール

入場無料・申込不要

講演要旨

安田守氏は、2002・2003年の夏、カナダの北極圏にあるポンドインレット村にてイヌイット人の家の下宿人となり、生活を共にしながら、大好きなイッカククジラを追った。 遠い自然・カナダ北極圏の大自然からみえてくるもの、近い自然・そこに住むイヌイットの暮らしからみえてくるもの。私たちと決して無関係でない世界が、安田氏の写真を通して視覚的・感覚的に、リアルなものとして伝わってくる。氷の下の動物に出会うということ、命がけで狩るということを語る安田氏の講演からは、動物たちの存在にふれ、呼吸を感じ、温かさを知ることができるだろう。

プロフィール

安田 守(やすだ  まもる)

1963年、京都府生まれ。京都御所を庭として少年時代をおくる。千葉大学大学院理学研究科卒業後、埼玉県自由の森学園中学・高等学校の理科教員として生物を担当する。2002年に同校を退職、同年及び2003年夏にカナダ北極圏のポンドインレット村へ赴き、イヌイットと暮らしながらイッカククジラを追う。現在はフリーのナチュラリスト、写真家。長野県駒ヶ根市を中心に「身近にある里山の自然」「遠くにある自然」などをテーマとして自然観察及び写真撮影を行っている。2004年夏にもカナダ行きを予定している。
共著に『骨の学校〜ぼくらの骨格標本のつくり方』(木魂社)がある。今現在の自然観察、カナダ体験記、写真などはホームページで随時更新中。

イッカク通信発行所
http://www012.upp.so-net.ne.jp/narwhal/index.html

講演レポート

今回のマルチメディア講演会は、写真家でありナチュラリストである安田守さんをゲストに迎え、合計三ヶ月間カナダの北極圏でイヌイットとともに生活を送り、そこで見た自然やイヌイットの今の暮らしについて、スライドで画像を見せながら紹介するという内容であった。

まず安田さんが北極圏に行こうと思った理由は大きくいって二つある。

アラスカを舞台に撮影する写真家の星野道夫さんの世界に惹かれたこともあって、北の自然というものに憧れていたということ。 もう一つは、五年程前にどうしても会ってみたくなった生き物がいたということである。その生き物とは、「イッカククジラ」という生き物で体長は五メートル程のクジラである。

「イッカククジラ」を実物で見た人はあまりいない。というのは、「イッカククジラ」は飼育しても成功しない生き物で、実際に見るには野生の「イッカククジラ」(北極圏にしか生存しない)がいるところに行くしかない。そういうこともあって、カナダの北極圏にあるボンドインレット村のビジターセンターに手紙を出したところ、下宿させてくれるイヌイットの家族がいると返事が来て、イヌイットと共に数ヶ月間生活することになった。

ボンドインレット村へ行く前に、本多勝一さんの『カナダエスキモー』という本を読んでいた事もあって、イヌイットの生活に多少不安はあったが、いざ行ってみると現在のイヌイットの暮らしは冷蔵庫、水洗トイレ、時計、GPS携帯電話等もあり、自分たちの生活環境と思っていた程違わなかった。しかし、実際に何日か共同生活していくとイヌイットの昔からの慣習や考え方等が今でも残っていて、そういうところがとても興味深かったという。

そして、スライドで村の写真や風景の写真等を紹介しつつ狩りの話になった。イヌイットは狩猟採集民族なので、今でもアザラシなどを狩りにでかける。冬は氷の上をモーターバイクで走り、キャンプをしながら狩り場を探す。狩り場に着くと全員で協力しながら狩りをする。安田さんも狩りに参加した。初めは少し躊躇していたのだが、だんだん慣れてくるとついにアザラシを捕まえることに成功する。安田さんは狩りに参加したことによってイヌイットの人達に認められたようだったという。

そして、氷がとける時期の八月に今度は船で狩りに行く事になる。八月は「イッカククジラ」が現れる時期でもある。そこで、安田さんは「イッカククジラ」と出会うことができた。その時の様子や様々な生き物の写真を紹介して、話は終盤へと向かった。

安田さんが現在のイヌイットの家に下宿させてもらって思ったのは、イヌイットの現在はアメリカ等からの物資や文化等が入って来ていて、やや欧米化しつつある。しかし、何千年と受け継いだイヌイットの知恵や文化もまた残っている。そういうイヌイットの現在を見て、自分の文化や生活について考えさせられることが多くなったという。

講演会が終わったあとでも、聴衆者から色々と質問などが絶える事なく、しばらく安田さんを囲んで話込んでいる人達が多くいた。安田さんとともに楽しそうに会話している人達の光景が印象的であった。

文:太田賢佑(芸術学部)


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