展覧会のつくりかた -コンセプトとミッション-:マルチメディア講演会

講演:中村浩美(東京都写真美術館主任学芸員) 
日時:2004年6月28日(月)16:30〜18:30
会場:京都精華大学情報館1階AVホール

入場無料・申込不要

講演要旨

今回のご講演では、東京都写真美術館の概要説明に始まり、近代〜現代を通じての美術館における写真というメディアの位置づけについて解説いただき、続いて展覧会におけるコンセプトとミッションについて、美術館・アーティストの観点からそれぞれ、「顧客とは誰か?」・「ここはどこ? わたしは誰?」と題して考えていきます。さらに、国内外の展覧会から、いくつかの具体例を挙げながら、「展覧会のつくりかた」についてお話いただきます。最後には中村浩美さんと参加者の間による、質疑応答の時間も設けております。

プロフィール

中村浩美(なかむら ひろみ)

1990年より、東京都写真美術館にて展覧会企画を担当。専門は視覚芸術を用いた映像表現(Visual Arts)。「ファミリーアルバム:変容する家族の写真」(1992)をはじめ、「日本の写真:現代の景色 1985-1995」(1997)、「メディアローグ」(1998)「NY SEP11」(2002)「幸福論-オンハピネス」(2003)等、現代美術と現代写真との境界にたった展覧会や、「ユリシーズの瞳」(1997)「ヴィム・ヴェンダース:トラベローグ」(1998)「PARIS+KLEIN」(2004)など、映画上映と展覧会とのコラボレーションを数多く企画。近年では、ドイツ、オランダ、イタリア、オーストラリア、ラトヴィア等、海外の大学・美術館等での講演依頼や展覧会プロデュース多数。

講演レポート

今回のマルチメディア講演会は、東京都写真美術館の主任学芸員、中村浩美さんをゲストに迎え、美術館での写真というメディアの位置づけや、展覧会をする際にどのように企画していくのか。そして、そのコンセプトが誰に、どのように向けられて発信しているのか、などといったことについて、東京都写真美術館でやってきた仕事などをベースに紹介していくものであった。

まず、写真が美術とどういう関係をもってきたかということから話が始まった。80年代に『美術手帖』で特集されていた「写真による美術、美術による写真」が、おそらく日本で初めて美術誌のなかで写真が扱われたものだった。それは80年代、90年代が写真と美術の関係にとって重要な時期であったことをあらわす一つの重要な出来事だった。

80年代以前は美術館で写真の企画展などはほとんどなく、写真家達の主な活動場所は、グラビアなど雑誌での仕事が主なものであった。しかし、80年、90 年あたりからは美術館で写真の企画展などがいくつか行われるようになる。そして、90年代にはいり、東京都写真美術館などの本格的に写真と美術を扱う美術館が現れた。

それから、写真家達の作品など具体的にスライドで紹介しながら、話は展覧会のコンセプト・ミッションといことに変わる。

コンセプトというものは、要するにアイデアである。ミッションというのは、美術館の使命みたいなもの。それは誰に向けられているものなのか。展覧会をする際に当然誰かに見てもらう為に企画をしていく。つまり、顧客(クライアント、カスタマー)に向けられた展覧会である。顧客と美術館がどのような関係をもてるか。それが、美術館のミッションということになる。

しかし、このミッションは一つ間違えば美術館の価値というものが、テーマパーク化してしまう危機も孕んでいる。例えば、現代美術を扱った企画展をするとする。顧客はその作品の価値の曖昧さにクレームを出す。そして、明晰な解答を求める。だが、当然明晰な解答というものは与えられない。そうなると顧客の足は美術館から遠のいてしまう。美術館に来る人は一部の関係者などの限られた人しかこなくなる。そうならないために、一般の人達との接点を築けるように企画を工夫していかなければならない。その工夫が展覧会のコンセプトの一つであり、ミッションなのだ。

今回の講演会はまず、写真と美術という関係の話からはじまり、企画展をつくる際には、誰に、どのように向けて発信するかというミッションの話。そして、展覧会のコンセプトを考える時、そのミッションを念頭において、顧客との接点を築ける内容にしていく話など、作り手の側も見る側からもとても興味深い内容の講演会であった。

文:太田賢佑(人文学部)


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