バーチャル・ミュージカル・インストゥルメント -そのコンセプトと作品について:マルチメディア講演会

講演:後藤英(作曲家)
日時:2004年6月17日(木)16:30〜
会場:京都精華大学情報館1階AVホール

入場無料・申込不要

講演要旨

バーチャル・ミュージカル・インストゥルメントは主にセンサーの技術によって製作された楽器であり、また、身体の身振りのインタフェースでもある。開発された主な楽器は、バーチャル・バイオリンのSuperPolm、身体の動きを認知するBodySuitが挙げられる。これらの楽器を用いた作品では、 Max/MSPによるリアルタイム音響合成により発音しており、プログラミングの方法と作曲のアイデア次第で無限に可能性を広げる。また、アコースティック楽器を演奏するロボットの開発にも携り、ミュージカル・インストゥルメントの新たな可能性に積極的に向かい合っている。

プロフィール

後藤英(ごとう すぐる)

1966年生まれ。ニューイングランド音楽院、ベルリン芸術大学、ベルリン工科大学などにて作曲を学ぶ。
主な賞歴は、タングルウッド音楽祭よりクーセヴィツキー賞、マルゼナ国際作曲コンペティション第1位、ベルリナー・コンポジション・アウフトラーゲ1994、1994IMC国際作曲家会議にて入選など。
世界各国、主要音楽祭にて作品は演奏されている。1995年より、フランスはパリIRCAMにてコンピュータ音楽を研鑽し、その後、NHK電子音楽スタジオ、ベルリン工科大学の電子音楽スタジオ、オランダのSTEIM、フランスのIRCAMにてコンピュータ音楽作品を制作し、各国で演奏される。
作品は、ドイツエディション・ヴァンデルヴァイザーより出版され、"Onomatopoeia and Montage"は、同国レーベル・アカデミー・デア・クンストによりCDに収められている。

講演レポート

バーチャル・ミュージカル・インストゥルメントとは、楽器であり、パフォーマンスの媒体などのことをいう。と言われても、いったいこの不可思議な初めて聞く長い言葉の正体はどんなものなのか、想像がついたものではない。話を聞き、実際の演奏を目の当たりにするなか、その中身は少しずつ解きほぐされていった。

話は音楽媒体の歴史から始まる。戦後に電子音楽というものが誕生し、シンセサイザーがつくられた。アナログ時代であったのがデジタルの世界へと移行して、コンピュータを使って音をつくり出すことが今や容易となってきた。今でこそコンピュータ音楽はそこそこ知られたものだが、ひと昔前はほんとうにマイナーな世界だったのだという。当時はたくさんの大型機材を必要としたが、現在ではひょいと持ち上げることの出来るノートパソコンで音をつくることが可能となった。この大きな差は技術の発展の大きさと比例するといえよう。

そうした中で、音楽のあり方というものに革命がおこった。音楽は聴くだけのものではなく、見る、ということにも密接に関係しているものなのだと。そこから身体の動きをインターフェイスでとらえて映像・音をあつかう、というものが出来上がってきたのである。

なぜ、バーチャル・ミュージカル・インストゥルメントが身体性と関係するのか。後藤さんはこう語っていた。音楽を演奏するのには常に身体が関わる。キーボードを弾くのにも指の動きがあるし、トランペットを吹けば唇や肺の動きにも関連してくる。目で楽器は弾けない。好きな音楽なら最終的に生で、ライブで見てみたい、となる。何度も撮り直して整えられたCDの、完璧なものよりライブのほうが良く感じられる。というのも、視覚的なものが大きく関わっているからである。

後藤さんがドイツに渡った時代、見る音楽というものに刺激をうけたのだそうだ。その当時はまだベルリンの壁があり、国家のためにでしか作品をつくってはならないような、自由のない時代だった。社会が混乱しているとアートが発展すると昔からいわれていることがあるが、その街も例外でなかったのだという。抑制されていたアーティストたちが爆発的にいろいろな創造をするなど刺激的な時代だったのだ。後藤さんもその刺激をうけて、今に至るというわけである。

そうこうするうち、後藤さんのもとへフランスでのプロジェクトの話が持ち上がり、実際いよいよ技術的なアプローチで実現していくこととなる。バーチャル・ミュージカル・インストゥルメントの立ち上がりである。

フランスで発表されたという、ダンサーと音楽とが不思議に交わった、10分程度に編集されたビデオが上映された。それに至るまでのきっかけとなったものに、バーチャルバイオリンというものがあるのだが、後藤さんがそのバイオリンを手に演奏している様子の映像もみることが出来た。それはセンサーによって音が出る楽器だ。そこにはいろんな意味や機能を持たせることが出来るのだという。そういった、いろんな変化が出来るという意味でバーチャルという部分を強調させたのが後藤さんのアプローチなのだそうだ。

最近では楽器を演奏するロボットの制作に携わっているという後藤さん。演奏者の筋肉の動きなどを研究したりしているそうだ。去年打楽器のロボットを発表したということで、いくつかの種類のロボットが演奏している映像を見ることができた。将来的なプロジェクトとしてはロボットのオーケストラをつくる予定なのだそう。まだまだ研究段階だというそれは現在5台だが、25台まで増やしたいという。その今いる5台で何が出来るか、ということで行われた演奏 “Robotic Music”の映像をみせてもらった。ロボットが演奏する。初めて目に、耳にしたそれは、わたしにとって時代の変化を感じさせるものだった。

後藤さん曰く、人間同士では頭に浮かんだデータを瞬時に交換することなど出来ないが、ロボットなら正確に、きちんとやってくれる。音楽の世界でほぼ不可能だったことを、ロボットは可能にしてしまったわけなのである。と、作曲家としての熱い想いを語っていた。

その後、後藤さんによるデモンストレーション、バーチャルバイオリンの即興演奏を聴くことができた。このバイオリンはそのもの自体で音を奏でることをせず、コンピュータとつなぎ合わせることによって音が出る。バイオリンのジェスチャーだけを模倣して、さらにバイオリンでは通常出来ない可能性を繰り広げるのが重要なポイントなのだという。

最後に質問の時間がたっぷりと取られ、ひとつひとつ丁寧に応答されていた。新しい音楽の世界。その世界はいったいどこまで進化を遂げていくのだろうか。無限の可能性に、わたしはとまどいを隠しきれない状態である。

文:武宮里子(人文学部)


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