童謡・唱歌について
歌は世につれ、とはいうものの・・・
いま、こどもの音楽の教科書から、かつて私たちが習った
童謡や唱歌の多くが姿を消しているらしい。
たしかに、この時代に「たきび」を目にすることもないし、
「めだかの学校」だって、小川からめだかが姿を消して久しい
いまとなっては、うたう身にすると実感が乏しいかもしれない。
しかし、待って欲しい。われわれが子供時代に先生に教わって
歌っていた「荒城の月」や「故郷」「夏は来ぬ」の歌詞を当時、
どれだけ理解して歌っていたかとなると、はなはだあやしいものだ。
それにも関わらず、それから何十年も経って、自分が子や孫を持つ
身になってそうした曲を聴くと、過ぎ去った過去の想い出や情景が
浮かんできて、思わず涙ぐんでしまう。
それはなぜなのか?
それはだれもが持つ幼き日の懐かしさや故郷の情景を、長調といえども
どこかうら悲しい、いかにも日本的とも言える旋律を通して、心象として
描くことができるからだ、と私は考える。
三木露風作詞、山田耕筰作曲の「赤とんぼ」は日本人に最もなじみ
の深い童謡と聞くが、「姐(ねえ)やに負われた」経験などなくとも、
あたかもそうした子供時代があったような感傷に浸ることができるわけ
である。
従って、いくら今の日本の風景が歌とそぐわなくなったとか、
歌詞が文語体でわかりにくい、といったことがあったとしても、
それらを音楽教育から取り除いてしまうのは、いかがなもの
だろうか。
日本人として守り残していくべき大切な文化なのではないか、
と思う次第である。
『教科書から消えた唱歌・童謡』
1F録音 N3/Ky4/CD
(text:bach憧憬)