セルフビルド:家をつくる自由
施主の意向を無視した建築家のエゴに従うくらいなら自分でマイホームを建ててみたい。
マイホームの所有などまだ現実味を帯びない学生さんでも一度は将来の想像してみたことないですか。空想主体が男なら、かわいい奥さんと子どもたち、そして愛犬か愛猫(またはその両方)がリビングで一緒に寛いでっていう平凡でピースフルなイメージとともに。家族みんなで幸せに暮らすための拠点である「家」。人生で最大の買い物だから誰しも後悔はしたくないはず。
しかしながら、一般的なサラリーマンの場合、30歳前後でレディメイドの創意工夫が感じられない分譲マンションもしくは建売住宅を長期ローンを組んで手に入れたはいいものの、ローン返済に追われ、苦労して完済し終えた頃にはもう定年。そして気づけば持ち家も老朽化。住み換えようにも築後10年で建物の資産価値など失くなるから住宅の需給バランス次第では買い手もつかず新居の原資もままならない・・・などという笑えない現実がある。あるいは、せいぜい頑張って注文住宅を建てたところで、建築家を慎重に見極めないと、高いカネを出して建ててもらった割に、見てくれだけ良くて住みずらく愛着も湧かないような自邸が不承ながらも終の棲家となる。買い換えるにしても間取りや内外装が悪ければ凝った分だけ中古の建売物件よりも始末が悪いかもしれない。
そう考えると「セルフビルド」って夢のような響きをもつ言葉ですよね。素人の自作と聞いてまず思い浮かべるのが「探偵!ナイトスクープ」でも有名になった高知県にある「沢田マンション」(本も出ているので興味があればチェックしてください)。親子3代にわたるワーク・イン・プログレスの大傑作。郵便配達夫シュヴァルの理想宮にも通じる、身震いするような感動があります。
そしてこの本。隠れ家的なツリーハウスではなく、あくまで自分たちで住む家を自分たちの手でコツコツと造り上げた素晴らしい実例が多数紹介されています。ここに登場する方々は、長い期間をかけて竣工に至るものの総工費は驚くほど安価で、眺めていてため息が出るばかりの素敵な自邸に住まわれている(渡辺篤史さんなら探訪しまくりモノでしょう)。自分でユンボを扱って電動工具を使いこなせるなんてやっぱりカッコイイ。こういう人たちを見るとつくづく知識や情報に偏重した高次に分類される産業なんてのは所詮頭でっかちな虚業だよなと思う。
バックパッカーなら知らぬ人のいない蔵前仁一さん編集、「旅行人」発行というのも面白い。セルフビルドという見えない壁を前に萎縮する感じが、はじめて海外へ一人旅に出かけようとする不安に似ているのではないか、と考えるのはいかにもクラジンさんらしい。「よし、いつかオレも」と読み手を鼓舞してくれる楽しい本です。