『日本を降りる若者たち』 下川裕治著
「外こもり?」
「外こもり」 ― うまい言い方だと思う。
自宅に引きこもるのではなく、海外の街に引きこもることを差すらしい。
20〜30代を中心に増え続ける日本に帰りたがらない長期旅行者(?)のことだ。旅行には期限が有り、なにがしかの目的(遺跡が見たい等)があるものだが、彼らにはそれが無い。ひとつの街から移動することもなく、安宿に泊まり、屋台で飯を食い、毎日ぶらぶらするだけ。バックパッカー用語でいう、いわゆる“沈没”というやつだ。バンコクをはじめ、物価の安いアジア諸国に多く生息し、手持ちの金が尽きると渋々帰国するか、現地でアルバイトをはじめたりする。
彼らが多く集まるバックパッカーの聖地と呼ばれる土地には、そういった生き方を容認してくれる文化や風土がある。
最近では様変わりしてしまったようだが、代表格はバンコクのカオサンだろう。カオサンという街は不思議で、一度足を踏み入れるとなかなか抜け出せなくなる。世界中のパッカーが立ち寄るので情報収集に最適なのはもちろん、生活に必要なモノは何でも揃い、街から出る必要がなくなる。さらにはタイの暑さと、しばらく滞在すると伝染してくるタイ人の“マイペンライ(どうにかなるさ)”気質が虚脱感を煽ってくる。
カオサンだけに限らず、世界のパッカー沈没地帯では同じような条件がそろっている。日本では許されない生活も普通のこととして受入れてくれるので居心地が良く、ついつい居ついてしまうのだ。
では、どういった人たちが「外こもり」となっていくのか?理由は人それぞれでも、その根底に共通しているのは日本社会に対する閉塞感かもしれない。日本社会が肌に合わないから、海外に居場所を求める。その生き方自体は決して悪いことではない。ただし、それが単なる逃避行の末に得られた済し崩し的結論でなければ。
本著でも「外こもり」を否定はせず、外こもっている人たちの現状を伝えているにすぎない。彼らの生き方をどう捉え、そこから何を読み取るかは読者に委ねられている。あなたは日本を降りたい若者の存在をどう思いますか?何を感じますか?
『日本を降りる若者たち』
下川裕治著 講談社 2007.11 9784062879170
情報館所蔵:3F文庫新書コーナー 334.423||Sh52||講/新