暴力批判論
12月10日から太田昌国氏講演会withウマカウ集団とラテンアメリカ映画祭が人文学部との共催で開催される。本書は、「暴力的グローバリズムに抗する映像表現」と題してご講演いただく太田さんの最新刊。
太田さんはフェアでストイックな思想家である。物事を決して一元的に捉えることなく、たとえ世間が悪と決めつける対象であっても、そこに別の側面を見出そうと試みる。それは自身の絶えざる内省に呼応するかのような透徹した他者への眼差しでもある。フセインや死刑囚、外国人犯罪者等へ言及した文章を読むにつけ、偏狭で短絡的なものの見方しかできない己の未熟さや浅学ぶりを痛感させられる。その態度は慈しみの情からくるものではなく、複眼的思考や膨大な文献の読み込みに基づく公平な身振りなのだ。
「力弱き者の立場に立ち、体制を批判することは、確かに必要なことだが、いかなる体制であれ、その悪に対して暴力によって立ち向かうな」(p-40)というラーゲリを生き延びたジャック・ロッシの重みのある発言は、そのまま本書における各題への言説に通底した太田氏のスタンスであるともいえる。
本書に限らず氏の諸作やウェブ上の発言(状況20〜21)に触れて、メディアリテラシーの作法や批評精神を学び、暴力に対して暴力で応答しないオルタナティブな選択肢について熟考する機会としてほしい。目に見える肉体的暴力だけでなく、さまざまな事象のうちに潜在する精神的・経済的な暴力を洞察できる能力を読書習慣を通じて養っていきたいものである。
暴力の連鎖を断ち切る術は未だ見えない。しかし、それについて資料を読んでは考えるを繰り返し、解を模索することは、研究者や政治家だけの責務ではなく、万人に課せられた営為である。たとえ岩を転がし上げるシシュポスの如し、だとしても・・・。太田さんの姿勢に僕も改めて襟を正したい。