フィッシング・ウィズ・ジョン

不良外人たちによる「釣り番組」という名のユルいトークショー。

矢口高雄の『釣りキチ三平』はご存知だろうか?僕の世代はこのマンガに影響されてこぞって釣りをはじめたものである。しかしたいていの少年たちは思春期を迎えると頭の中は女の子のことばかりになり、興味はモテる対象へと向かった。それはお洒落であり、スポーツであり、ロックであった。いきおいダサい<釣り>などからは自然と足が遠のいていったのである。『釣りサンデー』『関西のつり』を愛読していた僕ひとりを置き去りにして。

しかし10数年後ブームは再燃する。その下地はすでに故・中尊寺ゆっこによって造られていた。若い女性がオヤジ文化を認知しはじめたのである。そこに芸能人たちが比較的とっつきやすく見た目もお洒落なバス釣りをはじめたものだから、その影響で釣りをはじめる若者が増えてきた。イメージも一新、釣りが「モテるアイテム」として再生を果たしたのである。世の流れというものは常に女性の動向に左右されるのだ。これもひと昔前の話になるが。

「釣れないから面白くない」なんていう人がいるけど、そういう人は釣りの本質をよく理解していないと思う。釣れる釣れないなんてほんとはどうだっていいのである。むしろ実際に釣れちゃったりすると食卓に供するために鱗とかワタの処理をしなきゃいけないし、魚臭いクーラーボックスを何度も丹念に洗ったりしなければいけないので結構面倒くさかったりする(そういう意味でも本当に好きじゃないとできない趣味である)。そうじゃなくてほんとに楽しいのは、実は釣りにまつわる付随物のほうだったりするのだ。それは、数日前から当日のことを夢想しつつ道具の手入れをすることであったり、寒い日にカップラーメンをすすったり、仲間と暇つぶしにふざけあったり、見ず知らずの釣り師たちと四方山話をしたりすることなのである。

ジョン・ルーリーはその辺、釣りの本質をよく理解している。だってこの映画(TVシリーズが劇場公開されたもの)、釣り番組と称しながら一匹たりとも魚が釣れないのだから。ドキュメンタリーの体裁をとりながら(ときに川口浩風)、ほとんどゲストとのトーク番組と化している。その上、茶目っ気たっぷりの小芝居が随所に用意されていて、ツボをくすぐられないわけがない。どこまで本気(天然)なのか、どこまでお道化て(狙って)いるのかわからない面白さがある。ゲスト陣も豪華。ジム・ジャームッシュ、トム・ウェイツ、マット・ディロン、ウィレム・デフォー、デニス・ホッパー。毎回ゲストを一人呼んで、ホスト役のジョンと一緒に竿を並べる。そんな贅沢な組みあわせ、考えられないでしょ?それだけでも一見の価値あり。「松方弘樹、世界を釣る」の面白さにハマれる人にはおすすめ。テレビ東京とはまた一味違った、人を食ったようなルーリーワールドを堪能してもらいたい。

ところで、彼らのオフビートな立ち振る舞いは欧米人独特のものだと思う。日本人には決して真似できない気がする。リゾート地に行くと特に痛感するが、不良外人たちはめっちゃええ感じでビーチとかバーで寛いでいたりする。僕も含め日本人なんてみんな変にせかせか動いちゃって全然楽しんでる感じがしない。あのダウナー感というか、彼らの持つ独特の間やリズムが羨ましいときがある。

(text:情是)

    fromKYOTO

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