ヒルマン・カーティス:ウェブ時代のショート・ムービー
情報館主催の学生向け映像制作系ワークショップ「ニフンデジューブン」の集大成となる作品発表上映会がいよいよ今週金曜日に開催されます(詳細はコチラ)。どんな作品を作ってきたのかとても楽しみです。
職員の立場から言うのもなんなのですが、他大学図書館で、ワークショップやら講演会やら展覧会やら多様な催事を課外授業の一環として(しかも無料で)実施しているところなんて寡聞にしてか事例を知りません。本学学生でこの機会を利用しないのはもったいないと思います。向学心さえあれば専攻領域外でもどんどん知識や経験を積み上げていくことができる環境が整っているのに、関心がないばかりに授業料という高いお金を払って漫然と正規カリキュラムをこなすだけにとどまってしまうなら残念な話です。せっかくコストパフォーマンスの高い素晴らしい学習環境が用意されているのですから、情報館を休憩場所程度にしか利用したことのない方は、まずは「無自覚の自覚」からはじめましょう。
さて、「ニフンデジューブン」絡みで取り上げた本書の紹介に移ります。
教則本を期待して手にとるとがっかりするかもしれません。高性能な撮影機材が個人で購入できるほど安価になり、PCソフトで編集作業ができ、インターネットという情報発信のためのインフラが発達し、自己表現のチャンネルが増えた恵まれた時代にあって、どのような方法でわれわれは創造的な活動にコミットしていけるのかを問う思想的な本ともいえるからです。著者は自身の経験則からケース別に被写界深度や撮影環境など技術的なアドバイスを詳しく述べていますが、教条主義的で押し付けがましく感じないのは、恥じることなく吐露した失敗談に基づくナマの声だからです。
「なんでもいいからとにかく映画を撮ってみよう」というキューブリックの発言に倣い、シンプルな機材で手軽に映像作品が作れるのだという実例を示して読者の創造意欲を昂揚させるカーティス氏ですが、現在の環境を手放しで礼賛しているわけではありません。印象的なくだりを以下に引用して、この駄文を締めたいと思います。
デジタル・ビデオカメラの登場以来、制限や障害の数は劇的に減り、たった十年前と比べても、今ではずっといろいろなことが可能となっている。昔の映画作家には想像もつかないようなことがいくつも可能になったということは、確かに素晴らしい技術革新だけれど、同時にそういう際限のない技術的自由は、作り手をダメにしてしまうものだと僕は思う。この危機を脱して、強力なイマジネーションを再び呼び起こすためには、自分自身に制限を課すことが一番有効ではないか。(p-80)
本書を発行しているフィルムアート社という出版社は、映画・アートの実作系解説本や評論などの良書を量産されているオススメの会社です。ここの新刊書は随時チェックしてみてください。情報館でも積極的に購入しています。