センセイの鞄
かけがえのない存在。
ツキコさんはいわゆる「おひとりさま」30代後半女子。
女子という言葉を使ったのはツキコさんがとてもかわいらしい恋する女性だから。
1人で居酒屋に行く一見男前なツキコさんだけれど、高校時代の先生「センセイ」に再会して心を傾けていく様子はかわいらしいと私は思う。
(ちなみにおひとりさまは「個の確立が出来ている大人の女性」ということらしいのでこの使い方は正しくないのかも知れない。)
ひとりの部屋の空気に押しつぶされそうになり、外に出て通りを歩いているうちに心細くなったツキコさんは、帰り道がわからなくなった子どものような心でつぶやく。
「センセイ。」
ツキコさんの心の大事な場所にはいつもセンセイがいる。そんなツキコさんを静かに受け止めるセンセイ。時にはわがままを言ったり、甘えて困らせることがあってもセンセイはいつも落ち着いている。
「ツキコさん。」
と静かに諭す。けれど静かに見えるセンセイの心の奥にも葛藤があり、その心の内をツキコさんに打ち明ける。2人の心が向かい合うまでにずいぶんと時間が流れたけれど、その分ゆるぎない物が2人の間に生まれていた。
ゆっくりと時間が流れる物語の中で、ツキコさんの心の叫びが自分の心に重なって、
大丈夫、いつか叫びは大切な人に届くんだよ、と励ましてくれる。
心を開く。心を預ける。
かけがえのない存在に想いを馳せる、暖かくて優しい物語です。
(text:Booktree)
(情報館所蔵)
『センセイの鞄』 川上弘美著 913.6||Ka 94 3階閲覧室