第3回レビューテキスト
金鹿賞 かし。 さん
『ちいさいおうち』
ばーじにあ・りー・ばーとんおはなしとえ/石井桃子訳
3F絵本 726.5||B 94図書
力強くて、だけど繊細な、「おうち」。どことなく、人間と似てるなぁって思う。だけどそれは、今の私がこの絵本を読み返して感じたことで、幼い頃はただただ「おうち」の運命が気掛りだった。
自然が破壊され、都市化が進む。「おうち」は四季を感じとれなくなり、せかせかと急ぐ人々の姿だけが目に入るようになる。住人はいなくなり手入れされることもない。「おうち」を取り壊さないで!と願わずにはいられないほど寂しげで不安げな、「おうち」。
「おうち」は車で運ばれた。そして再び、「いなか」で静かに佇むことになる。物語はハッピーエンドだ。だけど、まだ、ほっとしない。「おうち」が笑っているようにみえない。だって、私たちは未だ強いフリをして自然を壊し、自らをも苦しませ続けている。
いつかこの絵本を自分の子どもと一緒に読んだとき、「おうち」は微笑んでくれるだろうか。あなたは、笑っているだろうか。
【講評】
◆Once upon a time ….半世紀以上も前に出版された、絵本の古典ですね。女の子も男の子も、この絵本のディーテイルが大好きです。大人になると、また別の読み方もできます。Great-great-grandchildren’s great-great-grandchildrenは日本語ではなんと? わたしたちはそういったスパンで考えているだろうか?…考えさせられますね。評にある「力強くて、繊細」はいいキーワードです。原著726.5||B94 BF1もお忘れなく。(田口)
◆誰しも「おうち」を求めさまよい,にもかかわらず,それはいっそう喪われゆく。そんなわたしたちの日常と生にたいせつな気づきをうながす,柔らかくも率直な文章がひときわ光っている。(佐藤一進)
◆幼い頃には分からなかった、今だからこそ気づけたことがたくさんあったのではないでしょうか。今度はぜひ自分の子どもと一緒に読んでみてください。(山北)
思い入れのある作品こそ、それを言葉で言い表すのは難しかった。だから、まさかこのような賞をいただけるなんて…びっくりしました。 【受賞者コメント】
「絵本なんて子どもが読むものだ」と思っているような人にも手にとっていただけたらいいなと思います。
銀鹿賞 石好石人 さん
エルフィー・ドネリ作 ; 遠山明子訳 ; 津尾美智子絵
3F閲覧室 909.91||D 85図書
例えばクリスマスのマスコット、サンタの仕事をしているのっていっつもおじいさん。男女平等の現代でも、女子に選択権はないのでしょーか?この本は、そんな疑問から始まります。
主人公のウィルマ(♀)は、父親と同じサンタになるのが夢。でも「女の子だから」と認めてもらえない。いとこのウィリー(♂)は家事が得意。でも「男の子だから」サンタの仕事をしなければならない。だったら入れ替わって、お互いやりたいことをすればいいんじゃない?…ということで、ウィリーに変装したウィルマ。果たして彼女は史上初の「女の子サンタ」になれるのでしょうか?
就活中の女子学生、いや男子学生の皆さんも!これを読んで、就職希望先にサンタの項目を加えてみませんか?
◆キャッチコピー「Girl, youなっちゃいなよ」の意図するところがわかりません。しかし児童書のなかでこれを取り上げたのは、いいセンスです。本書のポイントはおじいちゃんの言葉「なんで女の子は、まず、証明して見せなけりゃならんのかな…」と息子をやんわり批判するくだりでしょう――おとうさんより、おじいちゃんの方がススンデルゥ。(田口)
まさか本当に入賞するとこれっぽっちも思っていなかったので、受賞のお知らせをもらったときは寝耳に水というか…かなり驚きました。
小さい頃から何度も読んでいた本だったので、これを機会に色々な方に読んでもらえると嬉しいです!
銀鹿賞 キムタク さん
『Fantastic Planet』 Rene Laloux 監督
1F視聴室 778.773||F 14||VHS VHS
≪胸いっぱいのトラウマを≫
小さなオム族は進んだ文明を持つ巨大なドラーグ族に迫害され虫ケラのように扱われていた。母親をドラーグ族に殺され、その後ペットとして飼われていたオム族のテールはドラーグ族の文明に触れる中で知能をつけ始め、やがて仲間と共に反旗をひるがえす…。「時の支配者」でメビウスとも組んだ奇才ルネ・ラルーの仕掛けるシュールでサイケなカルト的SFアニメ作品。僕はこれを観て気持ち悪くなった。なぜならこの作品は、初見でありながら既にトラウマでもあったからだ。
世界を知らない五歳児の夢を覗き見るような、そんな不思議で奇怪な絶対的ノルスタジーをきっと貴方も感じるだろう。ああ、面倒な説明はいらない。貴方がこの絵を見て心にドキンと感じたならばもう、デッキにVHSを入れざるを得ないのだ。それで素敵なトラウマが手に入る。トラウマとはつまり、二度と忘れられない気持だ。そんな気持をくれる作品を、僕らはいくつ知っているだろう。
【講評】
◆『素敵なトラウマ』って何だろう。知りたいような知りたくないような…そんな気持ちにしてくれる(させられる)レビューでした。(前田)
◆あの悪夢のような映像世界を、絶対的ノスタルジーのトラウマとして前向きに薦めるのに共感!(佐川)